column 土、釉薬のこと

業窯の陶器の原料となる土は、全て瀬戸で採れる土を使用している。通称「瀬戸キャニオン」、その風景がグランドキャニオンに似ていることからそう呼ばれている鉱山で採掘された土だ。ここで採れる土は粘土中に鉄分がほとんど含まれないため、白い焼き物を作ることが可能である。2017年に日本遺産に認定された「日本六古窯(にほんろっこよう)※」の産地の中でも白い土を使っているのは瀬戸だけであり、この土こそ最良の土であると確信している。
また瀬戸焼は中世期では唯一釉薬を施した陶器を生産していたことが特徴で、本業窯では釉薬も手に入るものはほぼ全て瀬戸のものを使用している。釉薬の原料には主に木や藁や鉱物などが使われている。

瀬戸が約1000年前からほぼ途切れることなく焼き物を生産し続けて来られたのは、間違いなくこの恵まれた自然のおかげである。中量生産の項で紹介した民藝の趣旨の9つのうちの1つに「他力性」があるが、まさにこれに合致するものである。
他力性 - 個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって支えられているものである。

※日本六古窯とは古来の陶磁器窯のうち、中世から現代まで生産が続く代表的な産地(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称

瀬戸キャニオン – 地球を掘るということ

戸市の地盤は、今から1000万年以上前から約200万年前に堆積した「瀬戸層群」という砂礫と陶土の地層によって形成されている。その地層の中に(「瀬戸陶土層」があり、)「蛙目」「木節」といった良質な粘土の原料が豊富にあり、瀬戸の丈夫な陶磁器には欠かせない要素である「珪砂」も含まれている。
瀬戸市街地の北側の部分に瀬戸キャニオンはあり、最も良質で豊富な陶土が採れるため、まず地表面が採取しきられ、その後は露天掘りで採取し続けられた。
2020年の時点でもともとの採掘場の土はもう採れなくなり、少しずつ場所を移しながら貴重な資源を使い続けている。それは今努力しても決して手に入るものではない。現在は瀬戸以外の産地でも使われるが、すぐに捨てられるようなものに使われるくらいなら、作らないという選択もありではないかとさえ思う。
※一般の方は採掘場内に入り、見学することはできません。

釉薬も瀬戸の土地の恵みである

ての釉薬の原点となる「灰釉」は植物の灰を使用した釉薬である。瀬戸の木と藁にはケイ素分が多く含まれているが、その理由はさきほどの「珪砂」が豊富に含まれる地面から栄養を吸い上げているからである。その植物を灰にしたものを水簸させ、長石などの鉱物と合わることで釉薬となる。つまり粘土も釉薬も全てこの土地から得られる産物なのである。瀬戸はその土地の利点を生かし、白い素地に様々な釉薬を駆使した焼き物を作り続けてきたのだ。
釉薬の原料の一部は次第に瀬戸で手に入らなくなりつつあるが、可能な限り土地のものを使っていきたいと思う。